初めの一歩
ふわり。
自分の右足が、前へ踏み出すのを、確かに私は見ました。
あんなに無理だと思っていたはずの、初めの一歩。
けれど、小さな一歩でも、わずかに移動しただけとは思えない感覚の変化に驚きます。
表面的には、何も変わらず「停止状態」のような長い日々。
けれど、アクセルとブレーキを、同時に、しかも強く踏み込んでいるような感覚。
だから、まずは踏み込むことを止めなければいけないのに、
気持ちばかりが焦って、ついには身体も心もオーバーヒートしてしまいました。
そして、ようやく強制終了、つまりは本当の「停止状態」。
いつ以来かも思い出せないほど踏み続けていたペダルから硬直した足を離すと、
不思議と、静かで穏やかで心安らかな瞬間が訪れてくるのです。
なにもかものタイミングが、ピッタリと合うような、不思議。
ふわり、と身体のまわりを包む空気が動いたとき、甦った言葉。
「いつかふたりになるためのひとりやがてひとりになるためのふたり」
これは恋の歌、浅井和代さんの自由律の短歌ですが、
いつか理解できるだろうかと思い、胸の奥に寝かしておいたのでした。
恋愛に限らず、家族や友達、どんな関係もかならず一対一だと私は思っていて、
人は「ひとり」では生きていけないからこそ、いつも生じる「ふたり」。
そして、良い「ふたり」になれるのは、良い「ひとり」同士だからこそ。
自分の「ひとり」の在り方を見つめ直せた今、この短歌も以前とは違った味わいです。